国内バス業界のインバウンド振興に向けた取り組みを紹介
延期となった東京オリンピック、そしてコロナ禍、激動の2020年は国内のバス業界にも大きな影響を与えています。
今回は、コロナ禍が始まる前から今までに国内バス業界がどんなインバウンド振興に向けた取り組みをしてきたのか、そしてこれからのバス業界にはさらにどんな取り組みが求められるのか、それらについて解説していきます。
日本バス協会による近年のインバウンド振興への取り組み
まずは、日本バス協会による近年のインバウンド振興への取り組みについてご説明します。
2018年2月、日本バス協会は「インバウンド振興のためのバスサービス向上アクションプラン」を策定しました。
このプランのおおまかな内容としては、
- 観光需要に対応するための、バスサービスの利便性のさらなる向上
- インバウンドを見込んでの多言語化サービスの推進
- Wi-Fiの整備推進
- 貸切バスの輸送力強化とサービスのさらなる改善
の4つが挙げられます。
それぞれの内容についてご説明しましょう。
1.バスサービスの利便性のさらなる向上で観光需要への対応を万全に
観光需要にしっかりと対応するために、以下のような形でバスサービスの利便性をさらに向上させることを目指しています。
- 訪日外国人旅行者にも便利に使ってもらいやすい、鉄道と路線バスの共通乗車券を販売する
- DMO(観光地域づくりを推進するための法人)と連携して、訪日外国人旅行者の観光需要を考慮した路線バスルートを設定するなどして路線バスの利用促進を目指す
- 主要都市から直接観光地に行けるよう高速バス路線を充実させ、各バス会社で相互利用が可能な共通乗車券の販売も推進する
- 訪日外国人旅行者向けの定期観光バスのルートを充実させて魅力を高め、さらに水陸両用バスやオープントップの定期観光バスなどの運行でにぎわいを演出する
2.インバウンド対策として必須の多言語化サービスの推進にも注力
多言語化サービスの推進は、インバウンド対策の必須ポイントです。
日本バス協会のプランでは、以下のような多言語化サービスの取り組みを推進しています。
- バスターミナル、停留所、車両、観光地案内板、バス会社ホームページなどを多言語表記にしていく
- 経路検索システムアプリや高速バス予約サイトの多言語化の促進、JNTO(日本政府観光局)や旅行会社と連携して多言語でのバスサービス案内の推進を目指す
- 訪日外国人旅行者が観光地に行くためにどのバスに乗ればいいのかがひと目でわかるようにバス系統のナンバリングを推進する
3.Wi-Fi環境を充実させるための整備
訪日外国人旅行者がネットで日本現地の情報を気軽に得るためには「Wi-Fi環境があること」も非常に大切なポイントであり、日本バス協会はこの点も以下のようにしっかりと考えています。
- 訪日外国人旅行者の利用がとくに多いバスターミナルや主要国際空港のアクセスバス、長距離高速バス路線は2018年度中にWi-Fiの100%設置を目指す
- それ以外の路線においても、訪日外国人旅行者の利用が多い路線は2019年度中にWi-Fi設置することを目指す
4.インバウンド振興のための貸切バスの強化・改善対応
インバウンド振興のためには路線バスだけでなく貸切バスも強化・改善対応をしていく必要があるため、日本バス協会は以下のような取り組みを進めています。
- 「大型クルーズ船1隻につき貸切バス80台」など、クルーズ船の入港などにしっかり対応できるだけの貸切バスの確保
- 貸切バス事業者が連携し、インバウンド向けの広域周遊バス旅行商品を海外旅行会社などに開発・販売
- 貸切バスのドライバーを各バス会社同士で融通するための実証実験をおこない、制度の整備を目指す
2020年コロナ禍における、国内バス業界の現況
前述のとおり、日本バス協会はインバウンド振興のために2018年にアクションプランを策定しましたが、このプラン内容を推進していくなかで、コロナ禍が世界を襲い、バス業界のみならず観光業界全体の様相は一変してしまいました。
インバウンド需要のみならず国内旅行者も激減したことによって、もっとも大きな影響を受けてしまった貸切バスや、短~中距離の昼間運行のバス需要は回復しつつあるものの、夜間の長距離バス利用者は今も激減してしまったままの高速バスはとくに厳しい状況にあります。
そして路線バスも緊急事態宣言の時期はとくに大きく客足が落ち込みましたが、地域公共交通という立場である以上完全運休とするわけにもいかず、この時期にバス会社の経営体力を削ってしまった影響が今も残っていると考えられます。
今はそれなりに客足が戻ってきてはいるものの、コロナを機に時差出勤やテレワークを定着させた企業も少なくないため、ラッシュ時の乗客が完全に元に戻ることは考えにくいでしょう。
ただしこれは、ラッシュ時のためだけに多くの人員を配置しなければいけないという状況の緩和にもつながるため、路線バスはこの部分をうまくやれば経営効率を高められるチャンスとなる部分もある、という考え方もできます。
これからのバス業界に求められる取り組みとは
コロナ禍を経て東京オリンピックを控えた、これからのバス業界に求められる取り組みとしては、おもに以下の2点が挙げられます。
- バスの感染対策や換気力をアピールし、安心して乗車してもらえるようになること
- 2018年に策定したアクションプランの推進を続けること
この2点についてそれぞれご説明しましょう。
1.バスの感染対策と換気力を知ってもらうことは非常に大切
バスの中は密になるからコロナに感染してしまうリスクも高い、というイメージを持っている人は少なくありません。だからこそ各バス会社はそうした不安を軽減するために、どんな感染対策をしているのか、バスの換気力はどれほどのものかをわかりやすく説明・掲示することが大切です。
たとえば貸切バスの場合、たとえ窓を閉めていても外気を導入する換気モードを使えばたった5分程度で車内の空気が入れ替わるほどの換気能力を持っていますが、こういうことは意外と知られていませんので、そうした情報はホームページや車内リーフレットなどでしっかりと伝えておくようにするといいでしょう。
また、路線バスなどにおいても、バスに抗菌加工や抗ウイルス加工を施工しているのであれば、それがわかるステッカーなどを車両に貼り、さらにホームページでもわかりやすく大きく告知して、多くの乗客に「きちんと対策をしている」ということを理解してもらうことが大切です。
2.2018年策定のアクションプランの内容もすべて実現することを目指そう
東京オリンピックは延期となりましたが2021年の開催が予定されていますし、今は非常に苦しい時期ですが、それを乗り越えればこの先インバウンド需要がいずれまた戻ってくる可能性が高いと考えられます。
だからこそ、日本バス協会が2018年に策定したインバウンド振興のためのアクションプランの内容についてはできるかぎりすべて実現するよう、バス会社各社がその意義を理解して協力していく必要があります。
いずれまた高まるインバウンド需要を見据えて今後の国内バス業界に求められることとは?
国内バス業界は、日本バス協会が2018年2月に策定したインバウンド振興のためのアクションプランに基づいてさまざまな取り組みを進めてきましたが、コロナ禍、そして東京オリンピック延期という状況になって、現況としてはかなりの苦境に立たされてしまっています。
こうした苦しい状況を乗り越えて、いずれまた高まるインバウンド需要に対応できるようになるためには、バス会社各社の感染対策の取り組みとその内容の周知、そしてバス会社が協力してアクションプランの内容を引き続き推進していくという前向きな姿勢が求められます。